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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1710号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 安藤勇

被控訴人(附帯控訴人) 遠藤紀士雄 外四名

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人らの第一次及び第二次の請求を棄却する。

別紙第一目録記載の土地につき被控訴人らが囲繞地通行権を有することを確認する。

控訴人は被控訴人らに対し右土地を通行することを妨害してはならない。

被控訴人らの当審において拡張した請求はこれを棄却する。

原審の訴訟費用並びに控訴費用は控訴人の負担とし、付帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする」との判決を求め、付帯控訴につき付帯控訴棄却の判決を求めた。被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、付帯控訴により当審において請求を拡張し、「控訴人は被控訴人らに対しそれぞれ別紙第二目録記載の各土地のため別紙第一目録記載の土地につきそれぞれ別紙第三目録記載の通行地役権設定仮登記の本登記手続をせよ、付帯控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、被控訴代理人において、「被控訴人らは昭和土地株式会社との間の設定契約による通行地役権に基き物上請求権として控訴人に対しその登記請求権を有するので、原判決言渡後東京地方裁判所に、控訴人所有の別紙第一目録記載の土地を承役地とし被控訴人ら各所有の別紙第二目録記載の土地を要役地として右承役地全部につき通行地役権設定の仮登記仮処分命令を申請し、昭和三十八年八月一日同年(モ)第一〇、五六五号決定としてその旨の仮登記仮処分命令を得これに基きそれぞれ別紙第三目録記載のとおり仮登記を経た。よつて控訴人に対し右仮登記の本登記手続をなすべきことを求める」と述べ、〈立証省略〉……、控訴代理人において、「被控訴人らが被控訴人ら主張のような仮登記仮処分命令を得てその主張のような仮登記を経たことは認める」と述べ、〈立証省略〉……ほか、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

一、原判決の理由一及び二に示された認定及び判断は当裁判所においてもすべて相当と認めるから、これを引用する。

二、よつて被控訴人らが昭和土地株式会社より設定を受けた本件土地の通行地役権を控訴人に主張し得るかどうかについて検討する。

この点に関し被控訴人らは、本件土地すなわち別紙第一目録記載の土地は昭和土地株式会社より訴外甘野ヨシエに、更に同人より控訴人に売渡され、それぞれその旨の所有権移転登記がなされたので、控訴人は被控訴人らと昭和土地株式会社間の通行地役権設定契約に基く昭和土地株式会社の義務ないし地位を承継したと主張するけれども、昭和土地株式会社において被控訴人らに対し地役権設定の登記をなした事実が存しない以上、控訴人において右地役権設定契約を承継する合意が成立したかないしは少くとも控訴人において被控訴人らの地役権を承認する意思を表示した事実が存しない限りは、控訴人が昭和土地株式会社の義務ないし地位を承継するいわれのないことは明らかであり、そして右のような事実は何ら被控訴人らの主張立証しないところであるから、被控訴人らは控訴人に対し本件土地の地役権を対抗できないものといわなければならない。なお原判決は本件土地は昭和土地株式会社の申請により東京都知事から道路位置として指定されているから、控訴人は本件土地を道路として公共の用に供するという負担のついたままその所有権を取得したものであり、被控訴人らの通行地役権につき対抗要件の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該当しないというけれども、後記のように東京都知事の道路位置の指定により被控訴人らが本件土地を道路として通行し得る利益はいわゆる反射的利益にすぎず、しかも被控訴人らが右の利益を有するのは地役権を有するのとは全く別個の法律関係に基くものであり、そしてもともとある土地に他人の地役権が存するかどうかについて最も利害関係を有するのはその土地の所有者であるから、本件土地の所有者である控訴人が被控訴人らに対し地役権設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者ではないとの原審の見解には到底左袒できない。

三、よつて、被控訴人らの控訴人に対し通行地役権の確認を求め、右通行地役権に基き本件土地の通行の妨害禁止を求める第一次の請求は理由がない。

四、よつて次に被控訴人らの第二次の請求について判断する。

昭和土地株式会社が被控訴人ら所有の別紙第二目録記載の各土地を含む東京都豊島区高田本町一丁目千四百十八番二宅地五百九十三坪八勺を分割譲渡するにあたり、被控訴人らに分譲する右各土地は公道に接する部分がないので、公道に通じる道路を開設しなければ分譲地に建物を建築することができないため、分譲前の土地の一部で公道に接する本件土地について、建築基準法第四十二条第一項第五号、同法施行規則第九条、東京都建築基準法施行細則第十六条第一項に従い、東京都知事に対し道路位置指定の申請をし、その指定がなされたことは前記引用にかかる原判決記載のとおりである。ところで右各法条によりその位置を指定された道路は道路法による道路その他建築基準法第四十二条第一項第一号ないし第四号所定の道路と共に、同法第四十四条第一項により、同項但書所定のものを除き、建築物を建築し又は敷地造成のための擁壁を築造することが禁ぜられ、また右道路は道路交通法にいう道路と解せられるから、同法第七十六条により交通の妨害となるような行為が禁止され、同法第七十七条によりその使用に各種の制限があり、従つて専ら一般人の通行のために利用されるということができるけれども、右の利用は知事の道路位置指定なる行政処分によつて反射的に受ける利益であつて、右道路を常時通行のため利用している者であつても、私法上の権利を取得したと解することはできないから、その通行が道路の所有者によつて妨害された場合には、その妨害の除去につき行政庁の職権の発動を促したり、司法官憲に違反行為の処罰を求めたりすることは格別、直接所有者を相手どり通行権の確認を求めたり、妨害の排除や予防を求めたりすることは許されないものといわなければならない。よつて本件土地につき道路位置指定処分がなされていることを理由に控訴人に対し通行権の確認並びに通行妨害の禁止を求める被控訴人らの第二次の請求も亦理由がない。

五、更に進んで被控訴人らの第三次の請求について判断する。

前記のとおり被控訴人ら所有の別紙第二目録記載の土地は、昭和土地株式会社が東京都豊島区高田本町一丁目千四百十八番二宅地五百九十三坪八勺を分割した結果、公道に接しないいわゆる袋地となつたものであり、別紙図面のとおり右分割前の土地中、公道に接しているのは本件土地のみであるから、被控訴人らは本件土地につき民法第二百十三条による囲繞地通行権を有することが明らかである。ところで当審における検証の結果によれば本件土地は幅員約四米の道路の形状をなしている土地であるから、単身歩行して通行するには十分すぎる広さがあるけれども、被控訴人ら所有の各土地は、その坪数や右検証の結果によつて知られる付近の環境に照し、自動車の出入を要する高級住宅の敷地として適当な土地であるから、被控訴人らは幅員四米の本件土地全部を通行する必要があり、他方本件土地は、もともと右のように道路の形状をなした土地であるから通行の場所とする以外に殆んど使用価値がないばかりでなく、前述のように道路として位置指定の処分がなされてその使用は極めて限局されているのであるから、控訴人はその一部を通行されても全部を通行されてもその損害にさしたる差異はないのであつて、従つて被控訴人らは本件土地全部につき通行権を有するものと認めるのが相当である。しかるに控訴人は被控訴人らの通行権を認めないのであるから、控訴人に対し本件土地の通行権の確認を求めかつ通行の妨害禁止を求める被控訴人らの請求は理由がある。

六、次に被控訴人らは付帯控訴を申立てて控訴人に対し地役権設定の本登記手続をなすべきことを請求するけれども、本件土地の地役権を控訴人に対抗し得ないことは二に判断したとおりであるから、右請求は許容できない。

七、よつて、被控訴人らの控訴人に対する第一次請求たる地役権確認の請求並びに右地役権に基く妨害禁止の請求を認めた原判決はこれを変更して、右第一次請求並びに前記の第二次請求はこれを棄却し、囲繞地通行権並びに右通行権に基く妨害禁止の請求を認容し、被控訴人らの本件付帯控訴により拡張した地役権設定の本登記を求める請求は理由なきものとして棄却すべきものと認め、原審の訴訟費用並びに控訴費用の負担につき民事訴訟法第九十六条第九十二条但書を、付帯控訴費用の負担につき同法第八十九条第九十三条第一項本文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 牛山要 今村三郎 川嵜義徳)

別紙

第一目録

第一 東京都豊島区高田本町壱丁目壱、四壱八番弐

一、宅地 一二坪七勺

第二 東京都豊島区高田本町壱丁目壱、四壱八番八

一、宅地 一〇坪九合五勺

第三 東京都豊島区高田本町壱丁目壱、四壱八番九

一、宅地 一〇坪六合

第四 東京都豊島区高田本町壱丁目壱、四壱八番壱〇

一、宅地 一〇坪二合二勺

第五 東京都豊島区高田本町壱丁目壱、四壱八番壱壱

一、宅地 九坪八合四勺

の後記略図斜線を以て囲む部分の道路計五三坪六合八勺の全部。

第二目録

第一 東京都豊島区高田本町壱丁目壱、四壱八番地の参

一、宅地 壱〇〇坪参合八勺(被控訴人遠藤紀士雄所有)

第二 同所同番地の四

一、宅地 壱参六坪九合七勺(被控訴人中曾根康弘所有)

第三 同所同番地の五

一、宅地 壱壱弐坪五勺(被控訴人久松益蔵所有)

第四 同所同番地の六

一、宅地 壱〇〇坪(被控訴人松尾勝央所有)

第五 同所同番地の七

一、宅地 九〇坪(被控訴人田島一郎所有)

第三目録

一、東京法務局板橋出張所昭和参八年八月六日受付第弐六九参壱号

原因 昭和参弐年拾月弐六日地役権設定契約

目的 通行

範囲 全部

要役地 同所同番参の土地

二、東京法務局板橋出張所昭和参八年八月六日受付第弐六九参四号

原因 昭和参参年参月拾参日地役権設定契約

目的 通行

範囲 全部

要役地 同所同番六の土地

三、東京法務局板橋出張所昭和参八年八月六日受付第弐六九参五号

原因 昭和参参年壱月拾七日地役権設定契約

目的 通行

範囲 全部

要役地 同所同番七の土地

四、東京法務局板橋出張所昭和参八年八月拾五日受付第弐八弐八壱号

原因 昭和弐九年拾弐月拾九日地役権設定契約

目的 通行

範囲 全部

要役地 同所同番四の土地

五、東京法務局板橋出張所昭和参八年八月拾五日受付第弐八弐八弐号

原因 昭和弐九年拾弐月九日地役権設定契約

目的 通行

範囲 全部

要役地 同所同番五の土地

略図〈省略〉

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